~既存患者の定着が歯科医院経営を支える~
歯科医院経営において、既存患者の再来院は収益の安定化だけでなく、地域内での評判や紹介患者の獲得にも直結する重要な要素です。新規患者の獲得に比べ、既存患者の維持はコストパフォーマンスにも優れ、経営効率の向上にも貢献します。そのためには、「通い続けたい」と思ってもらえる信頼関係の構築が不可欠です。
この記事では、患者との信頼関係を構築し、再来院につなげるために必要な取り組みと実践方法などを紹介します。
臨床スキルと説明力の融合が信頼構築の鍵
多くの患者は、治療内容だけでなく「どんな理由でその治療が必要なのか」「自分にはどのような選択肢があるのか」を知りたいと考えています。
したがって、単に臨床的に正しい治療を提供するだけでは不十分で、治療に至るまでの説明を重視しなければなりません。
信頼構築を実践するためには、歯科医師が医学的根拠に基づいた治療の選択肢を理解している必要があります。
さらに、全スタッフの患者への説明スキルを高めるための研修を実施することも効果的です。
例えば、スタッフ間で模擬患者を用いたカウンセリング練習を定期的に行うことで、説明スキルの向上が期待できます。患者への説明は、専門用語を多用し過ぎると理解できず、不信感を抱かせることにつながるため、専門知識がない普通の人でも理解できる表現を使ってする必要があります。
EBMに基づいた説明と「インフォームド・チョイス」の重要性
患者が治療法を選択するには、エビデンスに基づいた治療法の選択肢を提示する必要があります。
現代の患者は、インターネットやSNSを通じて様々な情報にアクセスしており、説明の整合性や透明性が信頼の判断基準になることも少なくありません。
したがって歯科医院は、インフォームド・コンセントだけでなく、インフォームド・チョイスという視点を持ち、患者自身が主体的に治療方針を選べる環境作りが求められています。
歯科医師が、最新のガイドラインや文献を参考にして、わかりやすい形で患者に説明できるようにする必要があります。
具体的には、治療法のメリット・デメリットを表にまとめた資料を準備しておき、選択肢ごとの比較を視覚的に示すと効果的です。
視覚情報を活用した説明で患者の理解と納得を深める
齲蝕治療においてMIの概念を説明する際には、視覚的な補助ツールが有効です。
口腔内写真や3Dスキャナ画像、患者への説明用のイラストや動画を用いることで、言葉だけでは伝わりにくい内容も、より分かりやすく患者に伝えることができます。
これを実践するためには、画像撮影機器や説明用モニター、イラストソフト、説明資料などの導入が必要です。
これらの導入は経営者判断で行い、スタッフには機器の操作研修や活用方法を共有するミーティングを実施します。
写真やスキャン画像の保存管理には最新の注意を払い、患者のプライバシーを十分守るよう注意しなければなりません。
対話的コミュニケーションで患者満足度を高める
患者への説明の場は、医師が一方的に話すだけの時間ではなく、患者との双方向のコミュニケーションの場として機能させることが重要です。
患者の不安や疑問をその場で解消し、共感を持って対応することで、歯科医師と患者という関係から、信頼できるパートナーという関係へ進展していきます。
この対話的コミュニケーションを歯科医院全体で実現するためには、スタッフの接遇研修や患者との会話内容を振り返るケーススタディを行うことが効果的です。
接遇研修は外部講師に依頼して開催してもよいですが、院長やリーダースタッフが中心となり、実施することもできます。
診療時間外を活用して30分程度、患者役とスタッフ役に分かれて対応練習を行い、参加スタッフ全員で意見交換や相互評価を取り入れてフィードバックを行います。
最初のうちは外部の専門家による評価やアドバイスを受けると、より客観的かつ多角的な改善につながります。
ケーススタディでは、実際にあった患者対応の事例をもとに、対応の良かった点や改善点をスタッフ全員で話し合います。
月1回の全体ミーティングやカンファレンスの時間を活用するとよいでしょう。受付・アシスタント・衛生士など全スタッフが「患者との信頼関係を築く意識」を共有していることが鍵となります。
信頼をベースとした患者との関係構築が長期的な経営安定につながる
患者との信頼関係の構築は短期間で築けるものではありません。
日々の診療の中で丁寧な説明と対話を積み重ねることで、患者の心に残る治療体験を提供することができるのです。
治療技術と説明力を融合させた対応は、競合医院との差別化につながる重要な要素となります。
再来院を促す仕組みを考えるのではなく、信頼をベースとした患者との関係構築こそが、長期的な歯科医院経営の安定につながっていくのです。
こうした取り組みをマニュアル化・ルーチン化し、誰でも実践できる形でスタッフ全員に浸透させていく必要があります。
院長が全体の方針と骨子を示し、それをもとにチームスタッフや教育担当者が実務レベルでのフローや言い回し、対応例を具体化しマニュアルを作成していきます。
マニュアル完成後は、全スタッフが共有し、定期的に内容を見直す体制を整えることが必要です。
朝礼や終礼での確認事項に組み込む、診療後の振り返り時間を設けるなどして、日常の業務に自然に取り込みルーチン化する工夫が求められます。こうした工夫によって、スタッフが意識せずに実践できるような環境を作り上げていくことが重要です。
医療ライターY.A