「相手のためを思って…」とスタッフを叱っていませんか?叱るという行為は相手にとってストレスであり、院長との関係性も悪くなるでしょう。最近の研究では叱る行為は成長や学びに繋がりづらいということがわかっています。
そこで今回は、叱る行為とうまく付き合う方法について解説します。また、叱らずに相手を成長させる方法についても紹介していますので、是非スタッフ育成の参考にしてください。
叱るとはなにか?
そもそも叱るとは、言葉を使い相手をネガティブな気持ちにさせて、正しい状態に変えようとする行為のことです。叱るときは相手が、正しくないことをしたから叱ると思います。
しかし、この「正しい」「正しくない」の判断は上の立場の人の普通や常識、当たり前で決まります。
たとえば、院長が「昼休みや勤務外の時間帯に残って練習する」「スタッフは院長より早く出勤をして準備をしておく」というのが常識や当たり前、普通と認識していた場合、その常識から外れているスタッフが叱られるのです。
叱ることは成長や学びに繋がらない
人は叱られて強いストレスや恐怖を感じると、思考力が大きく下がる傾向があります。実際に人は叱られて恐怖や不安を感じると、臨戦態勢に入って逃げるか戦うかといった感情だけに脳が支配されてしまいます。恐怖から思考力が落ちて、よく考えずに突発的に行動するようになるのです。
叱れば相手の行動を一時的にストップさせることはできますが、叱られた側は思考力が落ちて「本来どうすればよかったのか?」「何でダメなのか?」といった本当に大事なことを考える余裕が失われてしまいます。
たとえば、叱られたスタッフが「すみません」「申しわけありませんでした」と謝っていたとしても心のなかでは「早くこの場から逃れたい」「黙ってほしい」と思っている可能性が高く、表面的に謝っているだけであることが多い傾向です。
結果的に叱られた人は、同じミスを繰り返したり院長に隠れてミスを隠したりするようになることも。最悪の場合、叱られた恐怖から急に退職することもあります。
叱る行為とうまく付き合う3つの方法
自分の当たり前を見直す
そもそも、叱る行為は上の立場の人が下の立場のひとにする行為で、叱る側に権力があるということになります。まずは、院長のほうが強い立場であることを自覚することが大事です。
そのうえで自分の普通や常識、当たり前が本当に妥当なのか、ズレがないかを俯瞰して見直す必要があります。たとえば「朝はみんなで準備をすると効率がいいのでは…」
「本人が練習したいときに練習させればいいのでは…」など、院長は自分が当たり前だと思っていることが本当に今も他人にとって当たり前なのか?時代遅れではないのか?または、自分の思い込みではないのか?などを一度、冷静に俯瞰することで、本当に叱る必要があるのかを判断できます。
あらかじめ求めていることを相手に説明しておく
叱ったり怒鳴ったりすると、相手は臨戦態勢に入って思考力が下がってしまうので、そうなる前に冷静な段階で「どんな行動が求められているのか」「何を大事に考えるべきなのか」説明しておきましょう。
たとえば、「治療をスムーズに進められるように、事前に処置内容を把握してほしい」「患者さんへの負担が少なくなるように考えて行動してほしい」といったようにスタッフに伝えましょう。
お互いが冷静な状況であれば相手も学んだり成長したりしやすく、なにより感情的に言われるよりも普通に教えてもらったほうが頭に入ってきやすくなります。
叱るときは短く終わらせる
叱る行為は相手の行動をストップさせる効果が高くなります。そのため、相手が危険なことをしているとき、その行動をやめさせるために使うのがベストです。
たとえば、溶解したばかりの高温の寒天を使おうとしている時や肝炎の患者さんの基本セットを素手で触れようとした時などです。間違ってもその後にダラダラと長く叱るのは禁物。
叱られる側からするとストレスが溜まって、学習能力が下がってしまいます。叱るのは短く切り上げて、その後は優しく思いやりをもって相手にわかるように説明しましょう。
叱るのではなく、成長をさせるには?
人が大きく成長するには「自己決定」つまり「自分で決めた」という感覚がとても重要です。実際に自分が学びたいと思ったことの方が、やる気がでるし誰に言われるでもなく自ら学ぼうとする、失敗した原因を解決しようとする傾向があります。
誰かに言われているうちは、自分で考えません。スタッフにはある程度自由に任せて、いろんな体験をさせるのがおすすめです。もちろん、スタッフが危険な行為をしているときは叱って、一時的に行動をとめてあげることも忘れてはいけません。
まとめ
叱る行為は相手の関係性が悪くなり、今までの信頼関係を崩すことにもなりかねません。まずは自分の普通や常識、当たり前を相手に押し付けていないかを見直してみましょう。
歯科衛生士 帆保智子