~接遇品質で差がつく、歯科医院の患者体験価値の最大化戦略~
治療技術や医療設備の進化により、他の歯科医院との「技術的な差別化」は年々難しくなっています。そんな中、来院した患者が「また通いたい」と思うかどうかは、診療以外の体験、すなわち接遇や空間、時間管理などのホスピタリティに大きな影響を受けます。
この記事では、患者体験価値(PX)を最大化するために、どのようにホスピタリティを設計し、組織に根付かせていくべきかを具体的な施策・役割分担・注意点も交えながら解説します。
患者体験価値(PX)が歯科医院のブランド力を決める
最近、歯科医療における「患者体験価値(PX)」の重要性が急速に高まっています。これまでのように「良い治療を提供すれば患者は満足する」という考えだけでは十分ではなく、歯科医院の第一印象から治療後のアフターフォローに至るまで、患者が受けるすべての体験が歯科医院のブランドイメージや再来院率に大きな影響を与えるのです。
つまり、患者の感情に寄り添い「心地よさ」や「安心感」を提供できるかどうかが、歯科医院経営の成否を分ける重要なカギとなっています。これはもはやホスピタリティの有無の問題ではなく、「戦略的にホスピタリティをどう設計し運用するか」が問われるといえます。
院内プロセスすべてが「体験価値」を構成する
患者が歯科医院に来院してから帰るまでの一連の流れすべてが、「体験価値」を構成します。受付でのあいさつ、問診票の受け渡し方、待合室の居心地、診療中の説明における言葉選び、会計時の声掛け、これらのどれかひとつでも対応が不適切、印象を損ねるような対応をしてしまうと、患者の満足度は大きく低下し、信頼を失ってしまう可能性があります。
スタッフ全員が患者体験価値の重要性を認識し、実践しなければなりません。まず院長やマネージャーが主体となり、外部講師やコンサルタントを活用し、接遇マニュアルを作成します。マニュアルは、スタッフに配布して読んでおいてもらうだけでは不十分です。スタッフに意味を理解してもらうために説明し、実践できる状態に落とし込む必要があります。そのため、院長やチーフスタッフ、外部講師などにより接遇マニュアルを落とし込むための研修を行うことが大切です。
研修は、新規採用時だけでなく、見直しと再確認のために半年に1回など定期的に開催することをおすすめします。
ただし、マニュアル通りに対応しようとするあまり、対応が機械的・事務的になってしまうと、かえって患者に冷たい印象を与えてしまうことがあります。患者の気持ちに合わせる柔軟さを忘れないように注意してください。
時間価値の最適化もPX戦略の一環
患者の中には、「時間の使い方」に敏感な方も多いです。予約時間通りに診療が始まらない、待ち時間がわからない、というだけで歯科医院の不満につながるケースも珍しくありません。こうした不満は、SNSなどを通じてネガティブな情報として拡散される可能性もあるため、軽視してはダメです。
時間価値の満足度を高めるために、以下のようなことに取り組むことをおすすめします。
■過去の来院~会計までの所要時間を分析し、予約時間の再設定や説明対応の効率化、準備作業の見直しなどに取り組む
■予約枠を30分と決めるのではなく、患者の傾向や処置内容ごとに適切な時間枠を再設計する。
■予約前日にリマインドメールやLINEを活用し、無断キャンセル減少に取り組む。キャンセル頻度が高い患者には個別対応も検討する。
これらの取り組みは、院長やチーフスタッフが主導で進めていってもよいですが、負担が大きいようなら外部の専門業者に依頼することもできます。
ただし、効率化を重視し過ぎると、患者に「せかされている」という印象を抱かせてしまう可能性があるので、患者や状況に応じて、柔軟な対応ができるような能力を身につけることが重要です。
空間と清潔感が「無意識の評価」に影響する
歯科医院の清潔感や空間デザインも患者体験価値に大きな影響を与えます。患者は、無意識のうちに清潔感や空間デザインから歯科医院の印象を感じ、それがリピート率や紹介率に反映されています。
院長やマネージャー、チーフスタッフが主導し、清掃や受付スタッフと連携し、待合室やトイレ、掲示板等の汚れを常にチェックし、院内が常に清潔な状態であるように徹底しましょう。
空間デザインは専門家に依頼するのがおすすめです。壁紙やインテリアだけではなく、音楽、照明、空調のにおいまで患者の「心地よさ」に影響を与えます。さらに、季節感のある花やポスターなど「もう一度来たくなるような歯科医院」の雰囲気を作るような工夫が必要です。専門家でないと空間デザインの演出は難しいですが、居心地のいい歯科医院について患者にアンケートをとり、演出に取り入れてもらいましょう。
ただし、空間デザインは個人で好みが分かれるため、「凝りすぎ・やりすぎ」に注意しましょう。「凝りすぎ・やりすぎ」の空間デザインは、一部の患者には魅力的に映る反面、落ち着かないと感じる方もいます。誰にとっても心地よく感じられるバランスを意識することが重要です。
歯科医院経営におけるホスピタリティは、単なる「おもてなし精神」とは異なります。患者の心に届く価値を提供するための「戦略資源」です。患者体験価値を最大化することで、患者との信頼関係を強化し、リピート率・紹介率の向上につなげることができます。
医療ライターY.A