「叱るのはパワハラだ」「叱って嫌われるのが怖い」などと、悩みなかなか叱ることができない院長も少なくありません。また院長自身が叱られた経験がなく、スタッフにどう叱ったらいいのかわからないという方も多い傾向です。
そこで今回は、コミュニケーションを深める叱り方について紹介します。
叱る目的を理解する
叱るのは慣れないうちは難しく、何の準備もせずに叱るのは相手を傷つけるだけで危険です。そのためまずは、叱る目的を理解し準備する必要があります。
叱る目的は、具体的に次の2つがあります。
《スタッフの誤った行動や考えを正す》
どんなに優秀なスタッフであってもミスはあり、未熟なところがあります。自身の未熟さは自分では気づきにくい傾向です。そのため、直してほしい部分は院長が指摘して、誤りを正す必要があるのです。
《スタッフの成長や変化の可能性をひらく》
院長から上手に叱られたスタッフは、必ず成長します。院長に指摘された行動や考え方が改まれば、少なくともそのぶんは確実に前進するためです。
《叱り方の手順》
叱る時に大事なのは、褒める→叱る→褒めるというように叱るだけでなく、その前後で相手を褒めることです。この叱り方だと相手の自尊心を傷つけることなく、しっかりと叱れます。
また、叱る際は次の6つのステップを踏むのが基本です。
準備と場づくり
叱る出来事が起きた時は、すぐ相手を叱るのではなく、最初に自分の中で叱る目的を確認します。また、叱る際は「いつもありがとう。いつもAさんがスタッフのみんなを引っ張ってくれるから助かっているよ」と、相手に感謝する言葉や日頃の活躍を認める言葉を伝えます。
ここでは、相手の心をほぐすような一言が必要で「ありがとう」や「助かる」というような相手を褒める言葉とその根拠を事前に見つけて準備しておきましょう。
《客観的事実の提示》
叱る準備ができたら「ところで昨日、こういうことがあったよね」と切り出します。たとえばAさんは先週、連絡無しで遅刻して昨日も遅刻したよね」と客観的事実を指摘します。
要求・要望を伝える
その後、改善や悪い行動の要求を伝えます。「他のスタッフは時間を守って診療前の準備をしたり、1日の流れを確認、共有したりしている。Aさんが時間を守らず遅刻をすることで、同じ説明を再度する必要があり、他の人の時間を奪うことになるよね(客観的事実)。それを防ぐためにも、時間までに出勤することはビジネスパーソンとしてのマナーで、ルールだと私は思うんだよね」というように、自分を主語にしたアイメッセージで伝えてください。
改善して欲しい点を伝えたら再び、相手の内面を肯定します。相手の積極的に支持したい点や汲んであげたい、認めてあげたい点を指摘します。
たとえば「Aさんは、普段からスタッフに熱心に指導してくれているよね。そこを私はすごいと思っているんだ。とても素晴らしいと思う。でも、連絡もなしに2週連続で遅刻したのは残念だ」というように、汲み取るべき部分は汲み取りつつ、あくまでも行動や言葉など相手の外面に現れたところだけを叱ります。
そのため、叱る時に相手の良いところもすぐに思い出せるように普段から良いところを探して、メモして見る目を磨いておく必要があります。認める部分があることで相手に対して敵ではない、味方なのだと思ってもらい、その結果、相手の心理的バリアを緩めて聞く耳を持つ傾向です。
《相手の考えを聞く》
院長の要望を伝え終わったら、相手に話させます。
「私はこう思うのだけれど、Aさんはどう思う?」と聞くと「はあ、始業時間に間に合うと思ったんですけど、思ったより時間がかかって間に合わなかったんです。間に合うと思ったから、連絡しなかったんです。」と相手が最後まで、話し終わるまで待つのが大切です。
話を聞き終わったら「そういう理由だったんだね」と相手の話を理解したことを示します。
解決策を考えさせ、支援する
「理由はわかった。でも、遅刻が続くと他の人にも影響するから時間厳守のルールを尊重して欲しいな。遅刻しないようにするにはどうする?」と伝え、今後の対策を相手に考えるように促します。
今後の対策は、必ず相手に決めさせてください。「こうしなさい」とこちらが解決策を与えると、自発的にそれを守ろうという気にならないからです。もし、相手が黙り込んでしまった時は「Aさん自身に考えて工夫してもらいたいから、どう思う?ゆっくり考えてみて」と伝えて考えを促しましょう。
また「はい、いつも乗っている電車より1本または2本前の電車に乗って、時間に余裕を持って出勤するようにします」と具体案を言ってきた場合は耳を傾けます。その後「何か私にできることはある?」と聞いてください。
これは院長として要望を伝えた時に、必ずワンセットとして言いましょう。相手は何か要望を言ってくるかもしれません。要求の内容が適切であれば受け入れ、そうでない場合はまた話しあいます。
《励ます》
最後にもう一度、相手の内面を褒める言葉や認める言葉を伝えてください。
「Aさんは、本当にスタッフの面倒見がいいし私も頼りにしているから頑張ってほしい。信頼しているので、これからも一緒に医院を盛り上げていきたいと思っているよ」と伝えて終わりです。
まとめ
スタッフを叱っても、ギクシャクとした関係にならないコツは相手の存在を認めること、相手の成長を願う気持ち、粘り強く会話でコミュニケーションを取ることです。
コミュニケーションを深め、個人だけでなく歯科医院全体の成長のために、叱ることを恐れずに実践してください。
歯科衛生士 帆保智子